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『花の忠臣蔵』(野口武彦)を読む(1) [本]

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 風邪をひいて、からだがだるい。最近、とみに感じるのは、回復力が衰えているということ。なかなか、からだが元に戻らない。こんなときに、むずかしい本はとても読む気がしないので、なにかおもしろい読み物でもと思って、駅前の旭屋をうろついていたら、この本にぶつかった。
 世の中には忠臣蔵フリークがけっこういるらしいが、ぼくは忠臣蔵のことはあまり知らない。でも、江戸城松の廊下で、吉良上野介に斬りつけた浅野内匠頭が、一方的に切腹を命じられ、お家は断絶、その後、亡き殿のうらみをはらすため、赤穂の47士が結集し、かたきの吉良をみごと倒す話だったというくらいは知っている。
 そんな話、いったいどこがおもしろいのだろう。しかし、そう思うのはぼくだけで、最近まで、忠臣蔵が歌舞伎でも映画でもしょっちゅう取りあげられていたことを考えると、たぶん、これはストーリー自体がはらはらどきどきのドラマだったのである。
 浅野内匠頭は吉良上野介にさんざいじめられたあげく、とうとう堪忍袋の緒が切れて、吉良に斬りかかる。しかし、吉良の取り巻きに阻止され、たちまち取り押さえられ、そのまま自死を命じられる。浅野内匠頭が、理不尽な仕打ちを受けるいじめられっ子だったとすれば、家臣の赤穂浪士はその恨みをはらすために、ひそかに結集し、厳しい環視の目をぬすんで、みごといじめっ子への復讐をはたす。
 そう考えれば、これは単なる仇討ちではなく、殺し屋たちの冷徹でスリリングなドラマでもある。フレデリック・フォーサイスばりのサスペンスといってもよいのではないか。しかも殺し屋はゴルゴ13のような一匹狼ではなく、軍団といってもよい規模をもっている。その個性あふれるつわものどもをまとめあげていく指導者の力量は、並大抵ではなかっただろう。
 しかし、吉良上野介という人は気の毒な人でもある。ちょっといじわるをしたくらいなのに、殿中で浅野内匠頭に斬りつけられ、あげくのはてに殺し屋集団の赤穂浪士に殺されてしまうのだから。おれは何も悪くないと叫びたい気持ちぐらいあったのではないか。
 そう、悪いのは、ほんとうは幕府、とりわけ将軍綱吉の決定なのである。斬りつけた内匠頭がまちがっていたにしても、浅野、吉良両者を取り調べ、じっくりと詮議したうえで、内匠頭は切腹としても、上野介にも相当の処分を下せばよかったのである。どうしてそうしなかったのか。
 赤穂浪士の行動は、単に主君の仇を討つにとどまらず、将軍綱吉の政治にたいする異議申し立てという側面も含んでいる。
 風邪でふらふらするなか、そんなとりとめもないことを考えながら、本のページをめくりはじめた。
 最初に当時の時代状況がえがかれている。
 浅野家の領する赤穂藩は、小藩のわりにはりっぱな城をもち、内情は裕福だった。藩は特産の塩の売買を監督し、藩札(いわば藩発行の紙幣)まで出していた。
 時は元禄時代。5代将軍綱吉の治世で、側用人の柳沢吉保が権勢をふるっていた。そのころ江戸に参府したオランダ人(ほんとうはドイツ人)ケンペルは、日本の街道のにぎわい、江戸の商売繁盛ぶりに驚きを隠せなかった。
 ケンペルはオランダ商館長とともに、将軍綱吉に謁見している。その姿は御簾に隠れて見えなかった。ケンペルは綱吉を「気宇雄大にして天性勝れた」人物と評している。しかし、著者によると、実際の綱吉は身長が124センチしかなく、「こびと将軍」と名づけてもよい姿をしていたという。
 当時はオランダ東インド会社の全盛時代であり、オランダはバタヴィア(現ジャカルタ)を拠点にして、幅広いアジア貿易を展開していた。鎖国政策がとられていたにもかかわらず、長崎からは大量の銅(当初は金と銀)が運びだされていた。
 日本はすでに貨幣経済の時代にはいっている。しかし何かと物入りで、常に財政が逼迫していた幕府は、窮地を脱するため、貨幣の改鋳に踏みだした。新たに発行される1両には、それまでよりもずっと少ない金しか含まれていない。いまなら、さしずめ金融緩和で、お札をじゃんじゃんするといったところか。
 そのためにわかに元禄景気が到来する。紀伊国屋文左衛門が活躍したのもこの時代、井原西鶴が『世間胸算用』を書くのもこの時代だった。
 綱吉という将軍は、子どもみたいにわがままだった。老中の制度に頼らず、側用人を重用したのは、好きなように政治をやりたかったからだという。加えて、もちまえの男色。柳沢吉保が抜擢されたのは、吉保が男前で、綱吉の好みだったからだという説がある。
 綱吉は幕府の石高を増やすために、大名取り潰し策を次々と実行した。「個々の大名家に少しでも失態があれば、幕府は、容赦なくこれを断絶・改易させることができた」という。
 短軀、同性愛、母原病、偏執狂(パラノイア)。これが綱吉の本性だったといわれると、ちょっと気の毒な気もする。しかし、ドラマを盛り上げるには、こういう人物は欠かせない。
「徳川綱吉はなるほど忠臣蔵のドラマでは陰の人物かもしれない」けれど、「もし、時の将軍が綱吉でなかったら、忠臣蔵事件は現実に起きたのとはちがったかたちで進行したろう」と、著者は記している。
 こうして野口版「忠臣蔵」は、陰の人物が登場したところで、いよいよ幕を開けるのである。つづきは、次回をお楽しみに。
 それにしても、風邪が早く治るといいのだけれど。

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コメント 2

justice

風邪を引く中こんな長文を書いてはいけない(笑)
by justice (2015-12-25 13:43) 

だいだらぼっち

おっしゃるとおりです。
by だいだらぼっち (2015-12-28 07:13) 

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